昔博物館で能面を見たことがある。
女の面だった。
なめらかな木肌に浮き上がった唇は今にも話しかけてきそうな生々しさがあり、ふとしたときに幾度となく思い出した。
ある夜、一度寝入ってから深夜に尿意を感じ起きた。
トイレを済ませ、戸を閉めようとしたらそこに能面が張り付いていた。
闇の中でうっすらと光っている。
少し開いた唇の中にはちまちまとした白い歯が並んでいた。
恐ろしさよりもどことなく美しいと感じ、しばらく見つめているとふっと消えた。
あれからしばらく経つ。そろそろまた現れてくれないだろうか。